カルマン渦列

1996年11月作成


一様な流れの中に置かれた物体(日常的な表現だと障害物という)の 後方では、その物体の影響によって流れに乱れが生じる。 この物体後方に生じる乱れた領域を後流あるいは伴流(英語でwake)と 呼ぶ。今回示したカルマン渦列は後流の代表的パタンのひとつとして 知られている。

図は円柱を過ぎる流れを断面で見たものである。ちょうど、電線に 少し強い風が吹いているような状況を想像してください。 色は渦度(「うずど」と読む。英語は vorticity )を表わす。 この渦度は、その位置にある流体粒子の自転角速度に比例する量と して定義される。この図では、赤く見える場所は反時計まわりの回転を、 青い領域は時計まわりの回転を意味している。厳密ではないが、 色の濃い部分が「乱れ」が強いと思ってもよい。

円柱の後方では、渦度をもつ流体が巻き込みにより大きな塊となり、 それが反対向きの渦領域との相互作用によって交互に後方へ放出される。 放出された渦領域は、後流中で規則的に配置する。このような配置が 安定であることを理論的に示したテオドール・フォン・カルマンにちなんで、 カルマンの渦列と呼ばれる。

ここで重要な点は、物体の上流(円柱の左側)では時間的な変動はない にもかかわらず、後流中では周期的な変動が観測されることである。 これは、非線形現象の特徴のひとつである「解の分岐」の例である。 低速の空気のような粘性がほぼ一定の流体では、レイノルズ数と呼ばれる 無次元数が唯一のパラメータとなる。このレイノルズ数は、慣性力(つまり 流れる勢い)と粘性力(いわゆる摩擦力)の比を表わし、値が小さいほど、 粘性力が強いことに対応する。円柱の例は、レイノルズ数=100 である。 (空気の粘性は小さいので、われわれが普通に歩いた場合のレイノルズ数は 10^5 (十万)位)。このレイノルズ数の値によって流体は様々な様相を呈する。

カルマン渦列が作り出す周期的な空気流の変動は風が作り出す音として 古くは電線のうなり、最近では自動車や新幹線からでる騒音などが知られて いる。

なお、この図は(株)計算流体力学研究所において同社開発の動画作成システム "SVIVID" を用いて作成したものです。


書庫に戻る